~日々の気になるメディアトピックを気ままにコメント分析~

Monday, May 23, 2011

やっぱりダルデンヌ(カンヌ映画祭)

日曜の午後、ダルデンヌ兄弟監督の『少年と自転車(仮題)』(原題:Le gamin au vélo)を見に行った。今年のカンヌ映画祭のノミネート作品で、映画を見た数時間後に、この作品は最高賞に次ぐ「グランプリ」に輝いた。

ダルデンヌ兄弟の映画は、もともと「好き」というカテゴリーに入っていて、『少年と自転車』も自然と見にいく流れになっていたのだが、数えてみたら1999年の『ロゼッタ』以来この兄弟監督の作品はひとつも見ていないことに気がついた。

ちょうど、出産・子育てで忙しく、昔のように映画館に出掛ける余裕もなく、ダルデンヌ兄弟の映画が封切りされるたびに批評を読むことにより、何本か見た気になっていたのだろう。

と、前置きはさておいて、やっぱり良かった!

父に捨てられた少年の愛の渇望。やり場のない感情の激しさ。ひょんな出会いから本物の絆を築き上げる血の繋がらない「親子」。

決して不自然じゃなく、お涙頂戴じゃなく、道徳の押し付けではなく、正解も不正解もなく、地域の不良少年から書店の主に至るまで、登場人物すべてが、それぞれの立場をそれなりに精一杯に生きている姿が見事に描写されている。


ある偶然(必然?)から、施設暮らしの少年のホストファミリー(といっても女性ひとり暮らし)となるサマンタ(セシル・ド・フランス)は、「大切なこと」「物ごとの本質」を直感的に察知し自然に行動できる能力が備わっている人物で、まさに、私が目標とするところの母親像である。そんな彼女も、映画の中で聖女扱いされてるわけではなく、ただの一人物として描かれている。

ところで、自分が男の子の母であるせいか、最近どうも少年が出てくるお話に弱い。

数ヶ月前、昨年のカンヌ祭で上映され、やはり10歳前後の少年の話を描いた、メキシコのディエゴ・ルナ監督の作品『ABEL』を見に行き、感慨に包まれた。
また、子どもを産んで間もないときにDVDで見たイタリアの故ルイジ・コメンチーニ監督作品『天使の詩』(1967、原題 Incompreso、仏題 L’incompris)には涙が止まらなかった。

今回、『少年と自転車』のシリル君も、私の母性?(それとも子供心?)の琴線に見事に触れてくれた。

Sunday, May 22, 2011

震災について、ふたことみこと

地球の裏側に住むにも係わらず、そして、日本の家族が被災地にはいないにも係わらず、震災のショックをまともに受けてしまった私は、生活がほぼ元通りになるまで少し時間が掛かってしまいました。おそらく、多くの外国暮らしの邦人が同じ思いをしたことでしょう。

震災発生直後から仏メディア、日本メディア、両方をライブでつぶさに追う日々。国による情報の扱いの格差については、当時話題になった通りで、首都圏に家族を抱える在外邦人としては気が狂いそうでした。

たとえるなら、ハリウッド映画。時限爆弾を仕掛けられたビルディング(日本)に住む人々が、ビルの内部放送では『ちょっと問題がが発生しましたが、ただいま修復中ですぐ終ります。』とアナウンスを受ける。一方、ビルの外(海外)にいる身内は時限爆弾のカウントダウンをライブで追っていて、トムクルーズばりのヒーローが時限装置を解除するのをひたすら祈っている。

映画なら娯楽だけれど、これが実際だとしたら冗談ではないでしょう。両国のメディアの影響をまともに受け、大げさではなく、一時、このような心理状態に陥ってしまいました。二度と、このような思いはしたくないです。

よく考えれば、フランスの福島原発関連ニュースも、情報源は日本の当局が発したものしかないはず。しかも、当初、ほとんどの外国人ジャーナリストは、東北地方はおろか首都圏からも脱出したので、独自の取材すらい出来ていない状態。

要は、『コップに水が半分入っている』という共通の情報ソースから、『まだ半分残っているので、大丈夫!』という日本のニュースと、『もう半分しか残っていないので、絶望的だ!』というフランスの報道。情報って、いくらでも操作できるもの、と思い知らされました。

いずれにしても、2ヶ月以上経過した今も、そして、仏メディアではほとんど話題にならなくなった今も、この件に関しあまり述べる気になりません。故郷のあまりの惨事に、悲しみと憤りがいまだ深いので。なによりも、日本の状況の収拾はついていないし。。。

この間、フランスではルノーの産業スパイ事件の結末や、世界ではロワイヤル・ウエディング、ビン・ラディンの死、リビア情勢など、、、。2ヶ月間の出来事を振り返る気はないけど、また少しずつでも、気の向くままに書いていこうと思います。

Wednesday, March 9, 2011

映画ブラック・スワン、スリルor感動?

『ブラック・スワン』を見に行った。とても気に入った。見る前に批評はひとつしか読んでいなかった。ル・モンドのThomas Sotinelが書いた記事。ル・モンドの映画批評とは波長の合うほうで、今回の『ブラック・スワン』に対する評価も良かったため、落胆する心配はあまりせずに出掛けた。結果、期待以上に満足した。

ただ、面白いことに、記事に描かれた映画とは全く別のお話を見た気がした。

まず、Sotinel氏の批評記事の題名にはdanseuse schizophrène とあり、文中にはさらにdanseuse folle(狂気のダンサー)とあったので、統合失調症(schizophrénie)の精神病バレリーナのお話なのかと思っていた。何のことはない、ごくマトモな女性のお話だった。

Sotinel氏はまた、film d’horreur (ホラー映画)とも描写している。私は大の怖がりで、少しでもホラーもの、超常現象・幽霊モノを見ると、しばらくはトイレにも行けないし、背後に気配がしてシャンプーすらまともに出来なくなる。臆病すぎて、いわゆるホラー映画は絶対に見に行かない。Xファイルでさえ震え上がるタイプなのだ。

ブラック・スワンは、私にとって、明らかにホラー映画ではない。スリラーでもないかも。鑑賞後も気味の悪さや恐怖感は無く、お風呂で髪も洗えたし、ひとりでトイレにも行けた。

私が見たのは、窮屈な環境にありながらグレもせず「いい子ちゃん」で四半世紀を過ごした普通の女の子の話。その娘が、プリマ役を契機に、(内なる)母を「殺し」、自分をがんじがらめに縛る超自我(=白鳥)と壮絶に闘う。

彼女の内部に渦巻く怒りや葛藤やドロドロや恐怖の激しさを思えば、血、暴力、幻覚、妄想を交えた強烈な映像描写は決して過剰ではない。特殊効果も説得力がありちょうど良い。そして何よりも怯える彼女に芽生えてくる勇気が見て取れて嬉しい。 

最後には闘いに勝った自由な開放感が深々と伝わってきて、ラストシーンの主人公と同様、晴れ晴れと爽快な顔で映画館を出た。

Sotinel氏は「ブラック・スワンは純粋に刺激的な映画であって感動を喚起するものではないBlack Swan est un film de pures sensations qui relègue les émotions au second plan.」とまとめているが、私は、スリルよりも感情的に動かされた。

そして、最後の相違点。Sotinel氏は「映画館を出たとたん、歩道上で言い争いを引き起こすような類の映画」としているが、幸い、一緒に鑑賞したオットと公衆の面前で夫婦喧嘩にはならなかった。

私「いい映画だったね。主人公、頭おかしくなかったね。」
答「うん」

Sotinel氏と見に行ったのだったらケンカになっていたのかも知れない。

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役者:ナタリー・ポートマンは最高。「フレンチー」役のヴァンサン・カッセルがどうにも平べったかったのが残念。

Tuesday, March 8, 2011

スーパーアイドル「マリーヌ」急浮上

週末の間中、それはもう、すごい騒ぎであった。

金曜日の昼ごろからラジオ、テレビ、インターネットすべてのメディアにおいて「世論調査でマリーヌ・ルペンがサルコジ大統領と社会党のオブリ第1書記を抑えてトップに!!」の話題で持ちきりであった。

マリーヌ・ルペンMarine Le Pen は今年1月に父ジャンマリー・ルペンを継いでフランス極右政党であるFNフロン・ナショナル(国民戦線)の代表となったアラフォー女性。

6日付けのル・パリジャン紙のために行われたハリス・インタラクティブ社の調査(sondage Harris Interactive)の結果、23%の人が「今、大統領を選ぶとしたらマリーヌ!」と回答し一番人気となった(他の2候補はそれぞれ21%)。極右候補がトップに踊り出たことにより、フランス政界&メディア界は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなったのだ。  

ただ、この結果自体は大して驚きではない気がする。今年に入り、正式にパパの跡を継いでからというもの、あっちで「マリーヌ」、こっちで「マリーヌ」、彼女の名を聞かない日など一度もない。(もはやファーストネームのみで通用する)

テレビ・ラジオでは特集番組に引っ張りダコ。スター並みの扱いで注目が集まらないほうがおかしい。また、いかにも時代劇の悪役代官といった「父」に比べたら、「娘」の方は気さくなブロンドの「ママさん政治家」といった様子で親しみやすいイメージだ。日本のアイドル同様、美人でないところが却って親近感を生む。

すなわち、「洗浄された極右のマドンナ」が作り出された責任の一端はメディアにもあるのでは?

そして、今回の調査の結果、「マリーヌを支持しても、もはや異端扱いされないんだ!堂々とFNに投票してもいいんだ!タブーじゃないんだ!」と、国民の一部のモラル・コンプレックスが取れたに違いない。

この騒動を受け、候補者の選択肢が充分でないと非難されたハリス・インタラクティブは、6日、次期大統領選への出馬が噂され人気の高いDSKことドミニク・ストロスカーン氏(PS社会党)を選択肢に含めた上で再調査を行うと発表。

その結果は、、、、タタターン(太鼓)!
「マリーヌ」1位(24%)、「DSK」2位(23%)、「ニコラくん」3位(21%)。(本日付けル・パリジャン発表)

全然フォローになってない。でも、このような大騒ぎの中での「再調査」に果たして意味はあるのだろうか?

はっきり言って、もし「世論調査のハリス・インタラクティブです、アンケートにご協力くださ~い」と電話が来たら、私だったら「もちろん、私のアイドル『マリーヌ』に投票いたしますわ~!」と、からかい目的で回答したに違いない。

Sunday, March 6, 2011

ルノー、産業スパイ容疑の基盤ゆらぐ

「我々には確信があります。確信がなければ、このような事態には至っていませんよ」
1月23日夜、TF1テレビのニュース番組に登場したルノーのカルロス・ゴーン会長は、同社の幹部3人に対する産業スパイ容疑の「証拠」について問われ、自信満々にインタビュアーに答えていた。

それから一ヶ月余、仏国内中央情報局(DCRI)の調査が進むにつれ、電気自動車(EV)秘密漏えいに関する国際的産業スパイ事件の「証拠探し」は、根も葉もないぬれぎぬ事件の「責任者探し」へと変換しつつある。

3月4日、ルノーのナンバーツー、パトリック・ペラタCOOは、ル・フィガロのインタビューに対し、ルノーが何らかの情報操作manipulationに巻き込まれている可能性を示唆し「スパイ事件が虚構であった場合には、責任を取り辞任も考えている」とまで述べた。

いったい何が起きたのか?

匿名の内部告発の手紙が発生したのが昨年夏。その後数ヶ月間、ルノーは社内のセキュリティー内規に則り、民間の調査会社を使って「独自の」内部調査を行ってきた。その結果、1月初旬、ルノー技術研究所(Technocentre)のEV開発担当の幹部3人を、外国(暗に中国)に企業プログラムを漏らし報酬を得たとして停職処分、のちに解雇した。

幹部の停職処分がメディアにすっぱ抜かれて初めて、ルノーは公けに訴えを起こし、スパイ疑惑の調査はフランスの情報機関であるDCRIに委託された。

その間、疑いを掛けられた幹部3人はそれぞれ弁護士を通し終始無罪を主張。一番若い幹部は「説明なしに突然停職を言い渡された。新聞を見てはじめてどのような疑いを掛けられているのかを知った」と証言している(ル・モンド3月5日付)。

そして、3月に入り、スイスとリヒテンシュタインにあるとされた幹部3人の賄賂受け取り用「隠し口座」は、少なくともスイスには存在しないことがDCRIの捜査により分かった。

1カ月前にはまだ自信満々であったルノー経営陣の威勢の良さは急速に萎えつつある。「疑いが晴れた場合には、幹部3人に職場復帰を申し出るつもりだ(3月4日ル・フィガロ)」と、ペラタCOOは提言。容疑を掛けられた元社員たちが、名誉を回復した場合、その提案を引き受けるかどうかは疑わしい。

何らかの復習目的の偽装工作にしろ、詐欺行為にしろ、幹部3人がシロであると確認されれば、ずさんな内部調査を遂行したルノー首脳陣の首が次々に飛ぶことは確かであろう。

今後の焦点は、日産との「かすがい」であるゴーン会長にまで火の粉が飛ぶか否かということ。また、この騒ぎの創始者である「匿名さん」が誰なのか、いつか分かる日がくるのかどうか。。。

A suivre…

Thursday, March 3, 2011

マドモアゼル・ディオールもフューラーがお好き

メゾン・ディオールの(元)デザイナー、ジョン・ガリアーノ氏のユダヤ人差別発言事件は思わぬ発掘をもたらした。

クリスチャン・ディオールの姪であるフランソワーズ・ディオール嬢(今は故人)が結婚式の直前、フィアンセのイギリス男性の傍らでフランスメディアのインタビューに答えているビデオである。

時は1963年、デザイナーのディオール氏はすでに他界。モノクロの画面に現れたフランソワーズは、胸にキラキラとかぎ十字のペンダント。イギリスのナチ系党員との結婚を控え、目を輝かせながらインタビュアーの質問に答える。

馴れ初めは?
「新聞に彼についての記事があり、わたくしも国家社会主義者であったので手紙を出しましたの。返事がきましたので、ロンドンに渡りましたの。」

プロポーズは?
「20日前にイギリスからフランスへ向かう飛行機の中で。国家社会主義者世界連合にとってはとても象徴的な出来事でしたわ。」

結婚後は専業主婦?それとも職業婦人?
「もちろん仕事、主人の政治活動を手伝いますわ!国際面を担当してフランスでエリートを育てますの。主人が投獄されたらわたくしもついていく覚悟ですわ。」

子どもの数は?
「出来るだけたくさん!子育ての方針は種の純血を守ること、アーリア人以外とは結婚しないこと、国家社会主義のために戦う、つまり種を守ること。」

理想のヒーローは?
「フューラー、アドルフ・ヒトラーですわ!」

いやはや、Ca mérite d’être clair !(なんとも明瞭な!)
これを見た後では、ガリアーノ氏の呑んだくれ暴言なんて河童の屁。

もちろん、姪御さんの意見なので、ブランド創始者のディオール氏に責任はない。4年前、大統領キャンペーン中に仏社会党候補者のセゴレーヌ・ロワイヤル氏の実弟が、工作員としてレインボー・ウォーリア号事件に絡んだ疑惑が噴出した際、ロワイヤル氏が「家族の振る舞いに関して責任はありません」のような発言をした記憶があるが、その通りである。

似たような話では、かのシャルル・ド・ゴール大統領の孫息子のシャルル・ド・ゴール氏(同名)がフランス極右のFN(Front National 国民戦線)代表として市町村選挙の候補者になったときにも(1999)、他の家族のメンバーは口を揃えて糾弾。(当時のThe New York Times の記事

とはいえ、ガリアーノ氏の解雇騒ぎを背景に、状況が状況だけにやはり面白い。ガリアーノ事件をきっかけに皮肉にも掘り起こされたこの埋没ビデオ。インターネット時代の賜物と言えよう。

おまけ:結婚式当日、式場前の喧騒(RUE89に掲載のビデオ(英語))

Wednesday, March 2, 2011

ロンドン五輪、アフマディネジャド氏お怒りです

さて、中東ではリビアのカダフィー政権崩壊寸前、イランでも昨日は前日に拘束された改革派リーダーのムサビ、カルビ両氏の釈放を求めて首都テヘランを含めた数都市で大規模なデモ活動が展開、治安部隊の弾圧も一層強まり緊張が続く。

そんな雰囲気の只中で、イランのアフマディネジャド大統領は、来年開催予定のロンドン五輪をボイコットする!などと鼻息が荒い。その原因は、五輪のロゴマーク。2012の数字をデザイン化したものだが、それが大統領によればZIONとも読めるそうで・・・。

ZION(シオン)はイスラエルの地エルサレムを指す言葉であり、イスラエル国家の存在を認めていないイランからみると、このロゴは世界のムスリムに対する人種差別であって、イランを含めたイスラム教の国々は五輪をボイコットする可能性があると主張。(2月28日)

一方、ロンドン側は、2007年に発表されたこのロゴマークに対する今さらの抗議に「?????」な様子。オリンピック主催者にとっては、このロゴはもちろん単なる数字でしかない。

まー、中東情勢の混迷で体勢が不利になる中、西洋とイスラムの一層の対立を狙ったアフマディネジャド氏の挑発行為であることは、誰もが感じてはいるのだが。

ひとつだけ言えることは、このロゴ、成功作とは言えないという点だろうか。正直、イマイチである。

その醜さに耐えかねて「ユダヤ陰謀説」を持ち出してきたとすれば、アフマディネジャド大統領の美的感覚は、ティオールのデザイナー ジョン・ガリアーノ氏のスピリット*に通ずるものがあるのかも、などと、妙な連想さえ掻き立てられるニュースであった。
(*おとといのブログ記事「ジョン・ガリアーノと酒癖の悪さ」参照)

Tuesday, March 1, 2011

アクテュはフランス生活の友


前々から、日々話題になるトッピックで、自分の関心がいくものについてメモしてったら面白そう、とは思っていました。

初めは、紙(画面)相手に文章打ち込んでも反応もないしねー、と無意味に感じましたが、そのうち、別に一方的なつぶやきでもいいや、たまたま見た人は読むだろうし、誰かの役に立つとも限らない、と思えてきました。

というのも、フランス生活者ならお分かりだと思いますが、フランス人は老いも若きも、ムッシュもマダムもマドモアゼルも、政治の話から3面記事にいたるまで、とにかくべらべらと話題にするのが好き。世間話をする時にも、ある程度のニュース l'actu( l’actualitéの略)の知識があると、人とのコミュニケーションがぐんと面白くなります。

ヒントになったのが、昨年2010年サッカーワールドカップ時の我が家のある出来事。

TVのニュースチャンネルから「ではお次は ‘La coupe du monde pour les nuls’(素人のためのワールドカップ講座)のコーナー!」とおどけた調子の声が聞こえてきて「まったくサッカーに疎いあなたでもこれさえ覚えれば会話に加われる!」などと言っています。

「さて、今日のフレーズは、
『まったく、なぜドメネク監督はシセを出さないんだ?
ギリシャのスーパーリーグの得点王だというのに!』
です。」

その夜、帰宅したオットにこのフレーズを伝えました。

翌日、仕事から戻ったオットは、「いや~、すごいよすごい。昨日のフレーズ本当に使えたよ」と可笑しそうに話し始めます。

全くサッカー音痴のオット、昼休みに社食でサーカーの話題になった時、すかさず
『まったく、なぜドメネク監督はシセを出さないんだ?
ギリシャのスーパーリーグの得点王だというのに!』
と、もっともらしく発してみたそう。

すると、みんな口々に「そうだそうだ、まったくだよな~、何でシセを使わないんだ!」などと熱くなって会話は続いたそうです。

私:「で、そんな知ったようなこと言って、他にも色々と聞かれた?」
オット:「全然。このフレーズをエサにその後も勝手に盛り上がってたよ」
ちなみに、オットはシセが誰であるのか、まったく分かっていません。

そう、そもそもフランス人なるものは、往々にして人の話など聞かずに自分がおしゃべりしたいもの。でも、話題についていけないからといって、ずっと黙っているのも面白くないですよね。

そこで、便利な「合いの手」があると、フランス人とのソワレも楽しくなってくるかも。ハァ~、ソレソレ!よいやさぁ、よいやさ!と、フランスの「巷の話題」に興味がない人にとっても、このブログの内容がコミュニケーションのお囃子代わりにでもなれば嬉しいな、と思います。


  海外生活ブログ フランス情報

Monday, February 28, 2011

ジョン・ガリアーノと酒癖の悪さ

メゾン・ディオールのデザイナー、ジョン・ガリアーノJohn Gallianoがここ数日ファッション界のみならず新聞の社会面を賑わしている。

先週末、パリのマレ地区のカフェ「La Perle」のテラスでガリアーノ氏と隣り合ったカップルがユダヤ人差別および人種差別発言を氏から受けたとして警察に被害届を出した。メゾン・ディオールは即刻ガリアーノ氏に職務停止処分を言い渡した。

そして今朝、新たな被害届が、ある女性により同じ3区の警察署に出された。内容はやはり反ユダヤ発言により誹謗中傷を受けたというもの。事は昨年10月にさかのぼるとのこと。

いったい何が起きたのか?ふたつの事件に共通するのは、同じカフェのテラス、ユダヤ人差別発言および脅し、そしてガリアーノ氏の泥酔状態である。

また、どうやら氏はこのような行動の常習犯であったようで、カフェの常連客も氏が他の客に絡むのを面白半分で応援するきらいがあったとか。(実際のところは定かではないが、lemonde.frのコメント欄に事情通らしき人がコメントしている)

ガリアーノ氏は反ユダヤ?女性嫌い?

パリのマレ地区といえば、ユダヤ人街およびホモセクシャルの街として有名な所。しかもカフェのテラスという路上で今までこのような誹謗中傷が繰り返されていたというのなら、誰も本気にせず名物化していたか、有名デザイナーとして大いに許容されていたかのどちらかではないか。

伝えられている氏の発言の内容は強烈だ。(女性に向かって)「ユダヤ人の汚いツラ下げやがって、お前なんか今頃死んでいるべきだ」(一緒にいたアジア系男性に向かって)「このアジア野郎、殺してやる」。

さらにさらに、時期的にはこの2件の出来事の間に取られたという、ガリアーノ氏の「絡む」場面のビデオがThe Sunのサイトに載った。例のカフェのテラスで,
隣り合わせた女性ばかりのお客に対し「俺はヒトラーが好きだ」「お前らみたいなのは死んでいるべきだ、お前らの母親や先祖はみなガス室行きのはずだ」と、へべれけながらも明瞭に聞こえる。当の女性たちは「信じられない」といった様子。

この女性たちが実際にユダヤ人というわけではない。このビデオを取り上げているル・モンド系のブログBig Browzerの記事の結論によれば、女性客の「あなたの問題は何?」という問いかけに対し「お前だよ、醜すぎる!」と氏が答えていることから、ガリアーノ氏はヒトラー好き以上に「醜さ」に恐怖観念を抱いているようだ。確かにそんな気がする。

天才デザイナーの美の観念が災いしているのか。お酒の力は時として本当に恐ろしい。

Sunday, February 27, 2011

サルコジ大統領TV演説、アリヨマリ外相更迭

週末の間中、アリヨマリ外相(MAM)の追放が確実との情報が飛び交う中、日曜夜8時よりサルコジ大統領の全国民に向けたラジオ・テレビ演説が始まった。この演説中にMAMの後任者を含めた改造内閣が公式発表されると誰もが知っていたが、演説の目的は、表向きには「世界情勢と移民問題について」と銘打たれていた。

個人的には、しばらく大統領演説なるものを意図的に見ていない。正直、このムッシュに関しては飽和状態で、彼の話し振りにますます空回り的なものを覚えているから。

でも、今晩は、演説の表向きのテーマと、内閣改造をどう発表するかに興味をそそられ、運よく子どもたちもベッドに送り込めたので、ワイン片手にテレビの前に陣取った。

ラ・マルセイエーズ(国家)のオープニングに引き続き、国旗と書棚をバックに大統領の姿が現れた。いつも落ち着きなく動き回る手や腕を写さないための胸から上のフレーミングか?などと余計なことに気づく。

さて、本題。予想通り、年末より沸騰中の地中海南岸の状況からスピーチは始まり、この喜ばしい民衆の自由への目覚めによりヨーロッパへと移民が大量に流入してはならない、と続いた。そして、「このような新しい世界情勢にきちんと対応するべく、外務大臣としての経験もある有能なアラン・ジュぺAlain Juppé防衛相を新たに外務大臣に任命する」ときた。

そして、驚いたことに、MAMに関しては、その名前にすら触れなかった。MAMの相次ぐ失態が内閣改造につながったという、言及しづらい事柄に対し、本人はうまくかわしたつもりであろうが、なんとも情けないスピーチの持って行き方。

この内閣改造のついでに、アラブ人に対する差別発言で有罪判決を受けているブリス・オルトフBrice Hortefeux 内務大臣も内閣から外れ、サルコジ大統領の特別顧問のポストに移った。

その他、少数の大臣入れ替えを発表し、座礁している地中海連合Union pour la méditerranée*の再生に言及し、どことなくバツの悪さを隠しきれないまま、演説は数分でサクサクと終了したのだった。

*今は遁走したベンアリ&ムバラク元大統領たちを2本柱として、サルコジ大統領が2008年に設立した、欧州と地中海沿岸の国々を集めた連盟。

Friday, February 25, 2011

フランス外交ぬかるみにはまる

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中東情勢もますます緊迫化し、各国の外交手段が試される時だというのに、フランス外交は内紛状態。サルコジ政権にとっては、一年後に再選を狙うためにはここが正念場だというのに、外交部門ではエンジンの内部故障が相次ぎなかなか前に進めない状態。

おととい、groupe Marly なる匿名の外交官グループがル・モンド紙にサルコジ政権の外交政策を批判する論説を出したとこのブログで取り上げたが、これに呼応する記事が、昨日、今度はル・フィガロ紙に掲載された。

「匿名の外交官たちへ」‘Réponse aux diplomates anonymes’と題されたこの記事だが、これまた ‘Le Rostand’ と名乗るやはり匿名の外交官グループにより「署名」されている。

皮肉もふんだんに用いたその内容は、groupe Marlyのメンバーを昔の外交に固執した時代遅れの自信過剰者たち扱いした上で、国の経済的崩壊回避、EU議長国の遂行、グルジアの独立を保護などなど、新しい「行動派」政策による具体的な「成果」を挙げながらサルコジ氏のこれまでの外交政策を強力に擁護している。さらに、匿名のMarly集団の影にPS(仏社会党)の存在を匂わせている。

同じ日、サルコジ大統領顧問のアンリ・ゲノHenri Guaino氏が、groupe Marly の主張を一笑に付した上で、この論説は大統領選に向けての「政治キャンペーンのビラ」に過ぎないとラジオで反論。

そして、今日、アリヨマリ外相が、ル・モンド紙上に同じような趣旨の反論を載せ、groupe Marly を「名乗りもしない意気地なし」呼ばわりしながらサルコジ氏の外交政策を賛美している。

そのアリヨマリ氏だが、皮肉なことに、いよいよサルコジ氏に外務大臣を辞任するよう諭されたと各メディアが発表。遅くても週明けの月曜日には新たな大臣が任命される見通しとか。そして、ル・パリジャンLe Parisien の情報によれば、アリヨマリ外相はサルコジ大統領に辞任の意図はないと返答したとのこと。どうなることやら。

ちなみに、アリヨマリ外相は、チュニジア政権崩壊の直前に政権側にデモ隊を取り締まる協力を申し出てひんしゅくを買ったほか、元ベンアリ政権との緊密な関係を非難されている。

リビア、軍事介入か否か、そこが問題だ

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リビア入りすることが出来たジャーナリストが増えたとはいえ、まだまだ不透明な情勢のリビア。ただ、①体制に抗議する市民たちに対する武力弾圧が激しくなっていることと②リビア東部だけではなく西部の首都トリポリ付近の町や村も次々と反体制派により解放され、カダフィ大佐はますます孤立していることだけは確かな様子。

フランスの人権大使のフランソワ・ジムレー氏が語るように、問題は「もはやカダフィ氏が退陣するか否かではなく、いつ去るのかという」点であり、国際社会の関心事は「人道に対する罪が行われていると推察される」という点だ(ロイターのインタビュー2月24日)。

デモ隊に対する容赦ない武力行使を野放しにできるのか?無防備なリビア市民を世界中が見殺しにするのか?国連軍やNATOの介入は必要ではないのか?… 
もっともな疑問が頭をよぎる。

しかし、市民を救うという目的とはいえ、中長期的に考えた場合、軍事介入は果たして効果的であろうか? 

この疑問に対し、Le Monde Diplomatique の近東専門家 Alain Gresh 氏は昨日Faut-il intervenir militairement en Libye ? (リビアへの軍事介入は必要か)と題するブログ記事を出した。

即刻軍事介入派の意見に対しGresh氏は「列強の軍事介入行為はまさにカダフィやアルカイーダなどのイスラム主義者たちの思う壺だ。そら、外国人が国を乗っ取りに来た!そら、十字軍が攻めて来た!と逆手に利用されかねない」という反論を取り上げ、自らも「イスラエルのガザ攻撃やNATO軍のアフガニスタン爆撃時には誰も止めようとはしなかった」「イラクへのアメリカ軍による介入の結果は、8年後の今、とても成功とは言い難い」と外部からの軍事介入には懐疑的だ。

では、どうすればよいのか?

Gresh氏:まず、国連指揮下の軍事介入は必ずしも効果的でないことを認めるべき。チュニジア・エジプトのケースでは外部干渉なしで市民運動が勝った。また、「国家主権souveraineté nationale」に係わる問題で、今回初めてメンバー国を禁止したアラブ連盟にも注目したい。このような断固とした態度はリビア国内の派閥の亀裂を強めて内部からの崩壊を加速する。
いずれにしても、リビアの石油資源やリビアのアフリカ移民抑止力を称えて、独裁政権と知りながら、今までさんざんリビア政権を武器輸出など軍力的にも援助してきたヨーロッパを始めとする列強が、この状況下で介入することは好ましくない。

私もGreshさんの聡明な分析に賛成ではあるが、その間、自由の「代価」として毎日失われている尊い命たちを見殺しにしているようで何ともやりきれない…。

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Wednesday, February 23, 2011

リビア、引き続き…

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おととい、ベネズエラへ亡命か?との噂も流れ、「カダフィ大佐が退散中…」と書いたが、やはり一筋縄ではいかない。

カダフィ大佐はちゃんとリビアの首都トリポリにいて、昨日の夕方はテレビ中継にて国民に呼びかけた。晩年はますますエキセントリックな人物として知られていたけれど、語る姿はやはり尋常ではない。

この様子を見る限り、ベンアリやムバラク前大統領たちのように亡命や引退など考えられない。国が滅びようと最後まで戦いぬく意気込み。背筋が寒くなる。

そして、姿はもとより仰天するのがスピーチの内容。「リビアの民よ、反乱分子と戦え、今夜より戦闘機材を準備する」などと国民同士の内戦を促している。昨日の朝からの情報によれば、すでにあちらこちらで戦闘機による空爆や地上戦による被害者が続出している。

しかし、新聞記者が締め出されているので、情報が乏しく、殺戮の度合いが懸念される。しかも、カダフィに雇われた多数のアフリカ人傭兵の仕業により死者が続出しているという。今日になってようやく、各国のジャーナリストたちがチュニジアやエジプト国境から「非合法に」進入できた模様。情報が少しずつ増えてきた。ル・モンドのジャーナリストも潜入できた様子。

明らかに市民の虐殺が懸念されるというのに、国連安保理は昨日一日中話し合った結果「暴力行為を非難」する声明を発するにとどまり、非常事態だと言うのに国連軍介入などの具体案はなし。やはり、中国、ロシアの尻込みか。

一方で、世界各国の外交官をはじめ、陣地がえを発表するリビア高官は後を絶たない。遅かれ早かれカダフィ体制の行く末は明らかなだと思われるのに、毒を食らわば皿まで?

それともまだ体勢を立て直せると思っているのだろうか。今日、副外相がリビア東部のデルナにアルカイーダのメンバーがイスラム主義の「首長国」を設立したと発表。お決まりの「イスラム主義」を持ち出した脅し…。

そんな中、イランの反応が興味深い。2年前に自国の抗議運動を武力で鎮圧したアフマディネジャド大統領自身が、本日テレビで、リビアの国民に対する武力行使を声高に糾弾した。チュニジア、エジプトの反体制運動の際にも「民衆はイスラム国家を望んで戦っている」などと目的を都合のいいようにすり替え、蜂起を支援するメッセージを発したイラン首脳陣は、内心はかなりビビッているに違いない。

いずれにしても、死者の数もソースにより300人(政府発表)から1万人(アルアラビアTV)と幅があり、まだまだリビアに関する情報は錯綜している。明日には少し明瞭になってくるだろうか。

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Tuesday, February 22, 2011

グループ・マルリー(フランス外交)

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2月23日付けLe Monde紙の意見欄に、匿名の外交官グループ(le groupe Marly)が論説を載せた (題名"On ne s’improvise pas diplomate")。'Marly' は発起メンバーが当初集まったパリのカフェの名前。

このグループは、現大統領は総じて行政機関を蔑視し、自らの政策ミスの責任を転嫁する傾向にあると、痛烈にサルコジ政権の外交政策を批判している。その裏付けとして、4つの誤りを挙げている。

衝動性。⇒地中海連合(Union pour la Mediterranee)の座礁。その目的と手段の変更をうながした外務省の忠告を無視し即席に設立された。
注)チュニジアのベンアリ前大統領とエジプトのムバラク前大統領を主な柱とした、サルコジ大統領発案の連合体。

アマチュア性。⇒コペンハーゲン環境会議の準備を環境省に任せたために、フランスそして欧州の弱さが露呈し、会議の失敗へとつながった。

メディア受けを狙う。⇒今メキシコとの間に起きている外交摩擦は、本来ならば穏便に処置されるべき案件が表沙汰になったことが原因。
注)メキシコで誘拐補助罪で60年の禁固刑を受けた仏人女性Florence Cassez をめぐる、首脳陣を巻き込んだ司法論争。

一貫性の欠如。⇒わが国の中東政策は意味不明で、シリアの思う壺となっている。同時に、フランス語圏アフリカ政策が物語るように、明らかな優先事項が実行されていない。

グループは、フランスの外交官もアメリカの同僚たちに劣らない真面目な仕事をしているにも係わらず、その意見が政策に反映されていないことを指摘している。

この論説は、もちろん、アリヨマリ外相の対チュニジア外交における相次ぐ失態に代表される、フランス国そのもののイメージ低下を嘆いたもの。

また、題名の "On ne s’improvise pas diplomate"(付け焼刃で外交官は務まらない)は、明らかに、ここ3日ほど話題になっている「サルコ・ボーイ」、チュニジアに就任ほやほやの若手ボリス・ボワイヨンBoris Boillon大使のお粗末な仕事ぶりを揶揄したものだろう。
(先週の木曜日、就任の挨拶に招待したチュニジアのジャーナリストたち対し、高慢で冷静さを欠いた態度を示したビデオが出回っている。2日後に仏領事館前で大使追放を求めるデモが起き、翌日に国営テレビ放送にで大使はチュニジア国民に対し謝罪した)

それにしても、司法官たちに引き続き、本来「自制義務(devoir de reserve)」下に置かれた外交官などの官吏たちまでをも敵に回して、サルコジ政権末期はいよいよ混迷してきた模様…。

ついでに、Groupe Marlyは、2008年に一部の軍指揮官がサルコジ政策を批判する論説をGroupe Surcoufの仮名で発表したことにちなんでいる。

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Monday, February 21, 2011

ついにリビア

リビアの最高指導者カダフィ大佐が退散中…。リビアはさすがにもう少し持つのではと思っていたが、地理的にも先に独裁者追放を果たしたチュニジアとエジプトにはさまれて、民衆運動の勢いに抵抗できなかったか…。

帰宅してからLemonde.frのライブで様子を追っているけれど、どんなに頑強なシステムを作り上げ、40年間その上にあぐらをかいていても、風向きが変わり崩壊するときには、トランプのタワーが崩れるようにあっけないものだと実感する。

国連の派遣官僚、戦闘機によるデモ隊への攻撃命令を拒否してマルタに避難した軍の高官など、今まで政権側にいた人々が次々に陣地がえしてトップを見放すために内部から脆くなるのだと、ライブで経過を追っているとよくわかる。人間なんて、本来は現金なものだ…。

ところで、チュニジア前ファーストレディーのレイラ夫人、瀕死の夫をサウジアラビアにおいてリビアに亡命中だったはずだけど、今頃またどこかへ脱出中だろうか。


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Sunday, February 20, 2011

民衆蜂起と腹痛と

十日ほど前から胃とお腹がしくしくと痛い。私にしてはめずらしい。

乙女のころから慢性的に胃痛に悩まされ、コーヒーも飲めず、バッグにはタケダ漢方胃腸薬を常備していた私だけれど、十ウン年前に日本を離れてパリに移り住むと同時にパタリと胃痛がなくなった。コーヒーも飲めるようになった。

そこで思い当たるのがアラブ諸国や中東で起きている民衆蜂起や反体制運動。なんとなく、これのような気がする。年末より新聞、ラジオ、TVニュースチャンネルでチュニジア情勢を革命に至るまで追ってから、ムバラク大統領退散に至るエジプト情勢、そしてここ数日の、リビアやイランなどの超強健独裁体制をも揺るがしている民衆の底力に、正直釘付けだ。

そして、疲れる。この地域の人たちの生活と直接かかわりはないけれど、すごく消耗する。マグレブや中東地域の沸騰によって引き起こされている、地殻変動にも似たパラダイムの変換に立ち会っている感覚。日本人としてヨーロッパにいても、この動きに否応なく巻き込まれているため、めまいに似た感覚を覚える。

中東事情に絡むヨーロッパやアメリカの思惑と対処、外交上の争点となりそうなポイントを、わかる範囲で考えてみると、その緊迫感に圧倒されて頭まで痛い。

こうオットに話すと「あー、わかるわかる。実はぼくも同じだよ。意外と疲れるもんだね」と答えた。

二日前からオットをパリに残し義実家に来ている。義母に、胃が痛いこと、原因として思い当たることを説明する。パラダイムが、地殻変動が、目に見えない気運の流れが、、、と抽象的な事柄を伝えようとする。義母は一生懸命耳を傾けてくれるが、途中で「ごめん、Je ne te suis plus… (話に)ついてけてない…」と申し訳なさそうに言った。

そこで、終いには私も「えっとね、Xファイルみたいなものなの」とつぶやいたが相手の目はテン。今宵は、義理娘がいつもよりもさらに宇宙人に見えたことだろう。